−研究成果報告 The 12th Report.−



Title: Adaptation and Evolution of Reproductive Mode in Copulating Cottoid Species
邦題 「交尾型カジカ類における繁殖様式の適応と進化」



著者 Takuzo ABE and Hiroyuki MUNEHARA

出典:“Reproductive Biology and Phylogeny of Fishes (Agnathans and Bony Fishes)“ Volume 8, part B of series, pp221-246

編者: B.G.M. Jamieson

出版社:Science Publishers (USA)

出版:2009年7月30日



【要約】  
 カジカ上科魚類における交尾の進化について詳述した。現在まで21属28種で交尾型卵生カジカが知られている。これらの魚類は、体内配偶子会合型(IGA)と名付けられた特殊な受精様式を持つという共通点がある。一方、交尾行動や卵保護様式は、極めて多様で、形態形質からみた系統樹上では、交尾型カジカは非交尾型カジカから多系統進化したことを示唆する。一見、相反するように見えるが、IGAは体内受精および胎生の前段階の繁殖様式であり、非交尾種と生殖生理学的な共通項は多く、精子が卵巣内に入る偶発的な交尾が起こると比較的短期間に交尾種に進化しえる。さらに、交尾種へと進化すると、産卵は雌単独で行える行動となるため、雌の住み場所など交尾種の生態的な要因に応じて卵保護様式は多様になりうる。

 ニジカジカで詳細が初めて明らかになったIGAは、その後の20年間にナマズ目、カラシン目、トゲウオ目など8目に及ぶことが確かめられている。カジカ類の中での多系統進化に加えて、魚類全般でも広くIGAが採用されていることは、魚類において交尾は容易に進化できても、体内受精さらに胎生へと進化するための障壁(たとえば、胚の体内維持システムの進化)は、相当に高いものであることを示している。

 本章は、以下のような構成になっている。その下には、この要約が理解しやすくなるように、本著のために用意したオリジナルの図をいくつか掲載した。


 なお、本著の出典である本には、その他に12のレビューが掲載されており、購入ご希望の方は、著者割り価格でお譲りできますので、『お知らせコーナー』をご覧のうえご連絡下さい。


1. 序論
2. 交尾型カジカ類の受精様式
3. 交尾行動の多様性と多系統的出現
4. 産卵と卵保護様式の変異
 1. 交尾・雄卵保護型(CoPC)
 2. 交尾・卵隠蔽(CoEH)
 3. 交尾・雌卵保護型(CoMC)
5. 交尾行動の進化
6. CoPCからCoEHへの進化的変移
7. CoPCから(CoEHを経て)CoMCへの進化的変移
8. 非交尾と交尾の変移点
 1. 交尾行動の進化的転換点
 2. 体内配偶子会合の進化的意義
9. 要約



図1. (A)2000年に新種記載されたキマダラヤセカジカの交尾行動。雌より大きく成長する雄は雌をめぐる闘争をし、勝った雄が雌に乗りかかり交尾する。(B)ヤセカジカの交尾行動。雌よりも小さい3個体の雄による交尾。本種は雄同士の闘争はなく、複数の雄が1個体の雌に交尾を迫る。ふ化後5か月で成熟し、1年後死ぬまで交尾に明け暮れる。


図2. 卵保護中のキマダラカジカの雌。カジカ類では少数派の雌が卵保護する種。砂礫底の石や貝殻に卵を産みつけ、砂をかけて隠す。見づらいが、アスタリスクで示している部分に卵塊がある。発生が進むと、保護期間中に伸長するくちびるを吸盤のようにして、卵塊にあてがい、海水の流れを作り、卵に酸素を供給する。


図3. トクビレ科アツモリウオの雌はアミコケムシの1種に卵を産みつける。親魚は保護をせず、卵はふ化までの数か月間狭い空間内で過ごす。


図4. 交尾行動の進化を表す模式図。波線ボックス中の矢印は行動の順序を示す。また、垂直の太い矢印は行動の進化の順序を示す。



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